第一夜 私は猫ストーカー
猫が好きなみなさま、初めまして、下妻と申します。
好みのタイプはさび猫だけど、猫に貴賎はありませんでしたね。どんな子も大好きです。今回縁あってこのページを担当させてもらうことになりました。
普段は書店員をしながら旦那と二人で築30年のマンションで暮らしています。このマンション、交通の便も良いし、カウリスマキの映画に出てきそうな佇まい(ぼろいってことですよ)がシックで気に入っているのですが、猫が飼えないのがウィークポイント。ゆくゆくは素敵な猫部屋を紹介してもらえたらいいなあ、なんて都合の良いことを思っているわたしです。
猫と暮らせない悲しいわたしはもっぱら外猫と旦那実家の猫(はーちゃんとしまちゃん。彼女たちの話はまた今度)を愛でる日々です。外猫との会話方法、距離の取り方、わたしはそれを、浅生ハルミンさんの『私は猫ストーカー』で学びました。外で猫を見つけたら、ギャア!とテンションがあがってついつい暑苦しい気持で近づいていましたが、それではストーカー失格だったのです。猫はレディ。猫は王様。うっかり忘れていた真実を思い出しました。彼らの気分をそがず、そっと見せていただく、そんな気持で。そうしたら猫はわたしたちの知らない横顔をふと見せてくれるかもしれません。
ハルミンさんのストークぶりは淡々としていて真面目でそれでいてくすくすとおかしい。そしてやがて悲しく切なくなるほど愛しさがこみ上げてきます。これって、猫に対する我々の思いとそのまま同じですね。
わたしが今ストーカーしている猫はスナックのおばさんが放し飼いしている長毛種。動きものろのろしていて大体スナックの前にいるのですが、いくら探してもどこにもいない時もある。猫同士のけんかの仲裁をする心優しき彼ですが、目撃情報によると雀を狩っている時もあるらしい。誰かにpuppy(子犬)と書かれたジャンパーを着せられていたこともあったっけ。彼のことなじみの猫って思いがちだけどわたしの知らない彼がたくさんいる。今もこうしている間、どこで何をしているのかな。猫ストーカーは切なく想像をふくらませます。
『私は猫ストーカー』 浅生ハルミン著 洋泉社刊